運動前の痛み止めは逆効果?筋肉の修復遅延と代償動作の落とし穴|和歌山市のパーソナルジム


公開日:2026年8月26日 | 監修:石川 翔(柔道整復師・はり師・きゅう師/パーソナルトレーナー)

こんにちは。和歌山市和歌浦のパーソナルジム「Titanium Fitness Gym(タイタニウムフィットネスジム)」代表の石川翔です。

「少し関節や筋肉に違和感があるけれど、ロキソニン(痛み止め)を飲んで今日の練習は乗り切ろう」
真面目でストイックな方ほど、そんな経験があるのではないでしょうか。

実際、当ジムに来られるアスリートやゴルファーの方からも「大会前は飲んで出ています」というお話をよく伺います。気持ちは痛いほどわかります。

ただ、運動前に消炎鎮痛薬を使うことには、トレーニング効果を目減りさせるだけでなく、より大きなケガにつながるリスクがあります。この記事では、身体の仕組みと研究データの両面から、その理由と現実的な対処法を整理します。

【 この記事の結論 】

✔ 炎症は「悪者」ではなく、筋肉の修復スイッチ。薬で止めると回復・成長にブレーキがかかりうる
✔ 18〜35歳を対象とした研究では、イブプロフェン1日1200mgを8週間続けた群で、筋肥大と筋力の伸びが低用量群より小さくなった
✔ 一方、高齢者を対象とした12週間の研究では、逆に大腿四頭筋の体積増加が約47%大きかった。年齢や用量で結果は変わる
✔ 薬の成分そのものが筋肉の収縮スピードを遅くすることはない。ヘッドスピード48〜50m/sを出す仕組みは別ルート
✔ 「動きが悪くなった」の正体は代償動作。痛みという警報を消したまま動くと、腰や膝に負担が移る

1. 痛み止めが「筋肉の修復」にブレーキをかける仕組み

筋肉はトレーニングの刺激で微細な損傷を受け、それを修復する過程で強く太くなります。この修復作業のスタートスイッチとなるのが、実は局所的な炎症反応です。

ロキソニンなどのNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛薬)は、この炎症を強制的に抑え込みます。炎症を止めてしまうと、修復を担うサテライト細胞(筋衛星細胞)がうまく集まらず、タンパク質合成の反応も鈍くなることが報告されています。

トレーニングから筋肥大までの5ステップと、痛み止めが炎症反応を抑え込む位置を示した図

▲ 炎症を止めることは、修復のスタートスイッチを切ることにもなりかねません

実際に、運動後にイブプロフェンやアセトアミノフェンを摂取すると、通常なら高まるはずの筋タンパク質合成の上昇が抑えられたという研究があります(Trappe 2002)。また、NSAIDsの投与によって運動後のサテライト細胞の増加が抑制されたことも確認されています(Mackey 2007)。

BFR(血流制限)トレーニングとの相性

当ジムでも取り入れているBFR(血流制限)トレーニングのように、意図的に代謝ストレスを与えて成長シグナルを引き出すメソッドを行っている場合、その反応を薬で打ち消してしまうのは非常にもったいない、と言えます。

2. 筋肉の収縮スピードそのものは落ちるのか?

では、薬を飲んだ瞬間のパフォーマンスはどうでしょうか。結論から言うと、薬の成分そのものが筋肉の収縮スピードを直接遅くすることはありません。

ドライバーのヘッドスピードを48〜50m/sといった高いレベルまで引き上げる瞬発的な収縮は、脳からの指令・運動神経の伝達・筋線維の働きによるものです。痛み止めが作用するのは炎症や痛みに関わる物質のほうであり、力を出す回路そのものにブレーキをかけるわけではありません。

力を出す回路と痛み・炎症の回路を並べて比較し、痛み止めが作用するのは痛みの回路だけであることを示した図

▲ 痛み止めが働くのは右側のルート。だから「速さ」そのものは落ちません

3. 「動きが悪くなる」本当の理由──代償動作

「スピードが落ちないなら、痛みを消していつも通り動けばいいのでは?」と思うかもしれません。ここに最大の落とし穴があります。

薬で痛みを一時的に消しても、筋肉の微細な損傷や関節の機能低下という原因はそのまま残っています。身体は賢いので、ある関節がうまく働かないと、無意識のうちに他の部位を過剰に働かせてカバーしようとします。これを代償動作(だいしょうどうさ)と呼びます。

股関節が動かない状態では腰椎と膝への負担配分が増えることを示した代償動作の比較図

▲ 動かない関節の分の仕事は、必ずどこかの関節が肩代わりします

たとえば股関節の動きが悪いのに、薬でごまかして鋭いスイングや重いスクワットを行えば、本来そこまで動くべきではない腰(腰椎)や膝が無理にねじられ、過剰な負荷を背負うことになります。

結果として、全身の連動性が崩れて本来のスピードが出せなくなるばかりか、かばって酷使された別の関節まで壊れてしまう——という二次災害につながるのです。痛みという警報を消したまま動くことが危険なのは、このためです。

「動きの土台になっている関節そのものを診てほしい」という場合は、併設の鍼灸接骨院で状態を確認することもできます。

4. 痛み・違和感があるときの判断基準

とはいえ、大会前や仕上げの時期に「休む」という選択が難しい方もいます。当ジムでは、次のような順序で判断しています。

鋭い痛み・可動域低下・服薬の必要性の3つの質問で当日のトレーニング可否を判断するフローチャート

▲ 迷ったときは上から順に確認してみてください

お薬を飲むかどうか、飲むタイミングをどうするかの判断は、必ず医師・薬剤師にご相談ください。私たちがお手伝いできるのは、「薬に頼らなくても動ける身体の状態をつくること」です。

5. 正直にお伝えします

この分野は「痛み止め=絶対悪」と単純化して語られがちですが、研究の中身を見ると、そこまではっきりしていない部分もあります。フェアにお伝えします。

◎ はっきりしていること

・運動後の筋タンパク質合成の上昇が、イブプロフェン/アセトアミノフェンで抑えられた(Trappe 2002)
・NSAIDsによって、運動後のサテライト細胞の増加が抑制された(Mackey 2007)
・18〜35歳を対象に、イブプロフェン1日1200mgを8週間続けた群では、低用量アスピリン群より筋肥大・筋力の伸びが小さかった(Lilja 2018)
・薬は痛みを消すが、損傷や機能低下という原因は消さない(=代償動作は起こりうる)

△ 注意して読むべきこと

・高齢者を対象とした12週間の研究では、逆に大腿四頭筋の体積増加が約47%大きくなった(Trappe 2011)。年齢によって結論が変わります
・上記の研究の多くは「高用量を毎日、数週間〜数か月」という条件です。「1回飲んだら全部が台無し」を示したものではありません
・研究の中心は膝伸展など限られた種目で、ゴルフやバスケのような複合的な競技動作にそのまま当てはまるとは限りません
・外用薬(湿布・テープ剤)については、内服薬ほどデータが揃っていません

まずは無料体験で、身体の状態を確認しませんか?

「どこをかばって動いているのか」は、ご自身ではなかなか気づけません。
国家資格を持つトレーナーが、動きのチェックからご提案します。

無料体験のお申し込みはこちら >

6. よくあるご質問

Q1. 試合や大会当日に飲むのもダメですか?

A. 服用の可否そのものは医師・薬剤師のご判断になります。トレーニングの立場から言えるのは、「当日だけ痛みを消して出る」ことより、痛みを消した状態で普段どおりのフルスイングやフルスプリントをすることのほうがリスクだということです。出るのであれば、動きの強度や本数を落とす前提で組み立ててください。

Q2. トレーニングの「後」に飲むのも良くないですか?

A. 筋タンパク質合成が高まるのは運動後です。研究で影響が確認されているのもこのタイミングなので、「後なら安心」とは言えません。ただし問題視されているのは高用量の常用であり、痛みが強く眠れないといった場面まで我慢すべきという意味ではありません。

Q3. 湿布やテープ剤など、貼るタイプも同じですか?

A. 全身に回る量は内服より少ないと考えられますが、局所の炎症を抑えるという点では同じ方向に働きます。この領域は内服薬ほど研究データが揃っていないため、断定は避けます。

Q4. 痛み止めで筋肉痛が減るのは、回復が早いということですか?

A. 別ものです。「痛みの感じ方」が減っているだけで、筋線維の修復が進んだわけではありません。むしろ、回復していないのに回復したと錯覚して負荷をかけてしまうのが一番危ないパターンです。

Q5. アセトアミノフェン(カロナールなど)ならNSAIDsより安全ですか?

A. 作用の仕組みは異なりますが、運動後の筋タンパク質合成に関してはアセトアミノフェンでも抑制が確認されています(Trappe 2002)。「こちらなら影響ゼロ」とは言えません。

Q6. どのくらいの痛みなら運動していいですか?

A. 目安は「動かした瞬間に鋭く走る痛みかどうか」です。ズキッと走る痛み、特定の関節だけ可動域が明らかに落ちている場合は中止。前日の筋肉痛レベルの張りであれば、強度と種目を調整して実施して問題ありません。

Q7. ヘッドスピードを上げたいのですが、痛みがある時期はどうすれば?

A. 痛む部位を避けつつ、動きの土台になる股関節や胸郭の可動域を整える期間に充てるのが現実的です。回旋の可動域が戻るだけでスピードが上がる方も多く、「休む=停滞」ではありません。

7. まとめ

✔ 炎症は修復のスタートスイッチ。薬で強く抑え込むと回復・成長にブレーキがかかりうる
✔ 特に「高用量を毎日、数週間以上」という使い方は、若い世代でマイナスに働く可能性がある
✔ 薬で筋肉の収縮スピードそのものは落ちない。落ちるのは代償動作による全身の連動性
✔ 痛みを消したまま動くと、負担は腰や膝に移り、二次的なケガにつながる
✔ 服薬の判断は医師・薬剤師へ。トレーニング側でできるのは、薬に頼らず動ける状態をつくること

痛みがあるということは、身体が「今はこれ以上の力やスピードを出さないでくれ」と警告を出している状態です。その警告を消すのではなく、警告が鳴らない身体をつくっていきましょう。

■ 参考文献

1. Trappe TA, White F, Lambert CP, Cesar D, Hellerstein M, Evans WJ. Effect of ibuprofen and acetaminophen on postexercise muscle protein synthesis. Am J Physiol Endocrinol Metab. 2002;282(3):E551–E556.

2. Mackey AL, Kjaer M, Dandanell S, et al. The influence of anti-inflammatory medication on exercise-induced myogenic precursor cell responses in humans. J Appl Physiol. 2007;103(2):425–431.

3. Trappe TA, Carroll CC, Dickinson JM, et al. Influence of acetaminophen and ibuprofen on skeletal muscle adaptations to resistance exercise in older adults. Am J Physiol Regul Integr Comp Physiol. 2011;300(3):R655–R662.

4. Lilja M, Mandić M, Apró W, et al. High doses of anti-inflammatory drugs compromise muscle strength and hypertrophic adaptations to resistance training in young adults. Acta Physiol (Oxf). 2018;222(2):e12948.

5. Lundberg TR, Howatson G. Analgesic and anti-inflammatory drugs in sports: implications for exercise performance and training adaptations. Scand J Med Sci Sports. 2018;28(11):2252–2262.

■ この記事を書いた人

石川 翔(いしかわ しょう)

柔道整復師・はり師・きゅう師(国家資格)
Titanium Fitness Gym 代表トレーナー/和歌の浦翔鍼灸接骨院 院長
プロバスケットボールチーム「ONELYS Wakayama」チームトレーナー。プロゴルファーをはじめとするアスリートのコンディショニングを担当し、医療とトレーニングの両面から身体づくりをサポートしています。

施設・トレーナー紹介を見る >

Titanium Fitness Gym(タイタニウムフィットネスジム)

パーソナル指導に加え、会員様は24時間いつでも自主トレ可能。和歌山市内でも数少ない環境で、痛みのない身体づくりをサポートします。

〒641-0022 和歌山県和歌山市和歌浦南3-9-1 FSビル1F
TEL:080-1450-6588
アスリートコンディショニングのご相談:専用LINEはこちら

※ご注意事項
本記事はスポーツ科学および解剖学的観点からの一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療方針を示すものではありません。お薬の服用や、痛みが長引く場合の医学的な対応については、必ずかかりつけの医師や薬剤師にご相談ください。